優しい、温かい、白い、小さなクレフの手。
小さいなんて言うと彼はちょっと不機嫌になるけれど、私はその手が大好き。
最初にその手に触れたのはまだ私が彼を特別だと気付く前、
私達が二度目にセフィーロに招喚された時だった。
一度目の招喚の時の戦いで心深くに刻まれた後悔に耐えきれなくて、彼に謝りに行った。
自分勝手で我侭を言ってばかりだった私を、彼は責める事も怒る事もせず、
『お前は悪くない』
そう言って、優しく私の手を包んでくれた。
その言葉とその手の温もりで、私はどれほど救われただろう。
その手の温かさは今も忘れていない。
恋人になった今では当たり前に繋ぐ事が出来るけど、
何度繋いでも温かくて、優しい気持ちになれる。
いまはもう最初に繋いだ時程どきどきする事はなくなったけれど、
その分穏やかな気持ちになれる。
彼の片手は、職業柄(?)いつも愛用の杖で塞がっているから
何か荷物がある時などは、勿論手を繋ぐ事は出来ないし、
この国での彼の地位や立場を考えると、あまり人前で繋ぐのも躊躇われる。
だから結局彼と手を繋ぐのは、二人きりで出かけた時や部屋で過ごす時間だけ。
二人で散歩へ出かけると、自然に手繋ぐようになったのはいつ頃からだろう。
私より少し前を歩き、ふと何かに気づいた様に振り返る。
そして満面の笑みと共に、私に手を差し出すのだ。
その笑顔に見とれてしまって、
私はいつもその手に応えるのが少し遅れてしまうのだけれども…
差し出されたその手に自分の手を重ねて、その温かさに触れる。
自分の頬が赤くなるのを感じながらも、彼に負けないような笑みを返すのだ。
優しい風が、柔らかな日差しが体を包むように私の心が温かくなる。
なぜかふと彼の手を繋ぐ力が緩む時がある。
私は彼の温もりを離したくなくて、繋ぐ手に力を込める。
すると、彼ももう一度力強く繋いでくれる。
「この手を離したくない」
繋ぐ度にいつも思う。
彼も、同じ気持ちならいいのに…。
*****
優しい、温かい、白い、繊細なウミの手。
『そんなに綺麗じゃないわ』と彼女は言うけれど、私はその美しい手がとても愛おしい。
最初にその手に触れたのはまだ私が彼女を特別だと気付く前、
彼女達魔法騎士が二度目にセフィーロに招喚された時だった。
一度目の招喚で辛い戦いへ導くだけ導き、あげくに何もしなかった私を彼女は責めることもしなかった。
それどころか、自分を責めて私に謝りに来た。
まだ幼さを残すその細い華奢な身体を、強いけれど繊細で優しい心を
どれ程傷つけてしまったのだろう。
謝りながら涙を零す彼女の心を少しでも軽くしたくて、私は彼女の手をとった。
『お前は悪くない』
だが、その手の温かさと優しさに癒されたのは寧ろ私の方だったかもしれない。
恋人になった今では当たり前に繋ぐ事が出来るけど、
何度繋いでも安らぎ、穏やかな気持ちになれる。
彼女の優しさが伝わってくるようで、心が軽くなり、癒される。
仕事に追われ眠ることも儘ならない、そんな日々の中にある唯一の光。
この世界の住人でない彼女とこの世界で暮らす自分。
彼女には彼女の世界での生活がある。
私もこの世界で最高位の導師と言う立場上、仕事に追われる毎日を過ごしている。
だから彼女がこの世界に来ても、私の仕事の為に彼女と過ごせる時間は限られていた。
散歩に連れ出して、私の後ろを歩く彼女へ手を差し出す。
どのタイミングで彼女の手を取っていいのかいつも迷うが、
出来るだけ自然に振り返り、笑顔で手を差し出す。
彼女はいつも一瞬戸惑い頬を染め、
でもとびきりの笑顔で私の手に彼女のそれを重ねてくれる。
重ねられた手から伝わる彼女の温もりが心を癒す。
その想いが、彼女に伝わる様にともう一度私は笑顔を返すのだ。
穏やかな光が溢れ、心地良い花の香が薫る。
その笑顔も、手の温もりも自分だけのものになればいいのに。
彼女を攫ってしまいたい衝動を押さえつけるために僅かに手の力を抜く。
すると、彼女はきゅっと繋ぐ手に力を込める。
「離さないで」と言っている様に。
彼女の気持ちに応える様に、私も繋ぐ手に再び力を込める。
「離したくない」と伝える様に…。
目を開けると、辺りは夕闇。
いつの間にか眠ってしまった様だった。
昼間に感じられた温かい日差しの名残も無く、穏やかな風は少し冷たく感じる。
どのくらい眠ってしまっていたのだろう…。
木に預けていた身体を起こそうとして、左手の温もりに気づく。
彼女と手を繋いでいた。
道理でこんな場所で暗くなるまで寝ていた訳だ。
彼女と繋いだ手がこんなにも温かかったから。
どんなに魔法を唱えても人の心を癒す事は出来ないのに、
彼女の手はいとも簡単に私の心を癒すのだ。
目の前に寄り添う様に咲いている二つの白い花に目を向ける。
この場所へ着いた時、『綺麗ね…』と見とれていた彼女。
『摘んで帰って部屋に飾ればいい』と言ったら、
『せっかく頑張って綺麗に咲いているのに、摘んだら可哀想だわ』と美しく微笑んだ彼女。
まだ少女だと思っていたのに、いつの間にか幼さは鳴りを潜め美しさばかりが際立つようになっていた。
夕闇の中、冷たい風が吹いてもその花は凛として、美しく輝いている。
まるで、隣で未だ目を覚まさず夢の中にいる彼女のようだ。
何にも染まらず、屈せず、流されずにただ白く美しく輝いている。
この二つの白い花は、きっとその命の続く限りここで寄り添い、咲き続ける。
自分と彼女も、そうであればいいのに。
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繋いだ手に力を込めた。
揺れる白い花のように、
このままずっと二人、
傍にいよう。
自分に、彼女に誓うように、そっと彼女の頬へ口付けを落とした



