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【学パロ】クリスマス

 

生徒会主催で行われるクリスマスパーティ。  
クレフ先輩と会場の端からその様子を伺っていた。  
 
音楽にのって会場で踊る人たちの中心に、エメロード会長とその恋人が舞う様に踊っている。  
『さすが会長は華がありますよね…すごく、素敵』  
先ほどまで着ていたパーティのチラシ配り用のサンタの衣装を脱ぎ捨てて  
薄いピンクのロングドレスに身を包んでいた。  
その手を引いて華麗なステップを踏んでいるザガート先輩もその長身に似合うタキシード姿。  
 
『あの二人は、並ぶと特にどこにいても目立つからな』  
クレフ先輩は見慣れているのか、いつもと変わらない表情で二人を見つめていた。  
”そういうクレフ先輩だって…どこにいても目立ってます”  
こっそりとその綺麗な横顔を見上げて心の中で呟いた。  
 
会場の一端には、軽食やスイーツやドリンクも並べられていて、ダンスをしない生徒達もそれらを楽しんでいる。  
これら全てを生徒会が取り仕切っているというのだから驚いた。  
 
『大体決まっているものを、その通りにするだけなのよ』  
会長は軽く笑っていたけど毎年会場の飾り付けも飲食のメニューも全て変わっているというし。  
クレフ先輩もいつもと変わらない様に振る舞ってはいるけれど…少しだけ疲れて見える。  
企画の内容にはあまり口出ししないが、皆のスケジュール管理や諸々の手配はほぼ一人でやってのけるのだと風が言っていた。  
私がいたからあまり表での仕事をしない先輩が、外でのチラシ配りにも付き合って隣にいてくれたのだと思うと少しだけ心が痛んだ。  
 
 
パーティが始まっても、会長達以外の役員は見回りや料理の確認にとほとんど動きっぱなしだった。  
会長達だって楽しんではいるけれど、パーティを盛り上げる事を一番の目的に踊っている。  
他の役員たちを信用しているからこそ出来るのだと、着替えている最中にこっそり教えてくれた。  
『貴方たちを巻き込んで申し訳ないけど、クレフもランティスも器用に仕事をしながら恋人の事も、とは出来ないから。  
 クレフは特に、他は何でも器用にこなす癖にこういう事に関しては頭が固いんだから…』  
 
クレフ先輩には、半ば強引に生徒会に入ってもらったのだと会長は言っていた。  
『頭も良くて人当たりもいいし仕事も出来る、でも少し自分の事にはあと一歩を踏み込ませないところがあって…  
 だから、貴方という恋人が出来て、驚いたけどみんな本当に喜んでいるの』  
そう笑いながら、会長は自分のクリスマスローズの髪飾りを半分、私の髪にさしてくれた。  
 
生徒会役員でない私と同じクラスで親友の光は、今日一日だけのお手伝いを頼まれたのだ。  
同じクラスでもう一人の親友、風が生徒会役員であり  
同じく生徒会役員のランティス先輩と光はお付き合いをしているし、そして私はクレフ先輩と…  
その上会長から直々に頼まれて嫌と言える訳が無かった。  
ううん、むしろ先輩が生徒会の仕事で忙しいから一緒に過ごす事を諦めていた私にはありがたい申し出だった。  
とは言っても手伝い出来たのは簡単な雑用とパーティのチラシ配りくらいだったのだけども。  
 
 
『今日は、本当にすまなかったな。結局一日手伝わせてしまった』  
先ほどまで会長と、会場全体に向けられていた青い瞳がまっすぐにこちらを見つめている。  
 
クレフ先輩とほぼ毎日一緒に帰っているとはいえ、まだ全然うまく会話も出来る様にはなっていない。  
ぽつぽつとぎこちない言葉を交わしながらただ並んで帰るだけで精一杯だった。  
肩が触れ合う程の距離でその瞳に見つめられて平静でいられるはずがなかった。  
 
耐え切れず先輩に向けていた顔を会場に向ける。  
サンタの衣装くらい真っ赤に染まっているんじゃないかと思うくらいに、顔が熱い。  
『そんな事、ないです。大した手伝いも出来なくて却って先輩の負担を増やしたんじゃないかと。でも………』  
先輩に言葉を紡ぐ時はいつも、そうだ。  
どちらかといえば通る声でうるさいと言われる程なのに、先輩といるとうまく口が動かない。  
”…でも、先輩と一緒にいれて嬉しいです”  
言わないと、伝わらないとわかっているのに…  
その気持ちを声にする事が出来なかった。  
赤く染まった顔をあげる事も出来なかった。  
 
 
その間に流れていた曲が終わり、途切れなくまた新しい曲が始まる。  
でも会場内のざわめきは少しずつ少なくなってきた。  
俯いていた顔を少しだけ上げて会場に目をやると、最初に比べると生徒の数はずいぶん減っている。  
会場の真ん中にいた会長たちもいつの間にか踊りの輪から消えていた。  
あれ、と思った瞬間に私の前に手が差し出される。  
 
 
『そろそろ、最後の曲だな。龍咲、よければ一曲踊ってくれないか?』  
同時に、私の手が先輩の胸元へ引き寄せられていた。  
『え…』  
突然の事に頭が真っ白になる。  
それでも何度か授業で練習したからか、先輩のリードが上手いからか、足は自然とステップを踏んでいた。  
一歩足を奥へ引けば、そこは裏の倉庫へ続く廊下。  
そこは二人で踊るには充分な広さだった。  
繋がれた手とそっと腰に添えられた手で操られる様にくるりとターン。  
いつの間にか、ついていくだけで精一杯だったステップも先輩と同時に足が出せるようになっていた。  
 
 
だけどその時にはもう最後の一節を残すばかりになっていて  
軽快な音の余韻を残しつつ、会場からはたくさんの拍手があがった。  
拍手が鳴り止む前に会長の良く通る声で閉会の挨拶が聞こえてくる。  
それは短い夢の時間の終わりを告げていた。  
 
 
 
 
 
***  
 
 
 
簡単な片付けと生徒会の打ち上げまで、一通り終わったところで帰路につく。  
いつもより随分と遅くなってしまった。  
 
なかなか言い出せない私にかわって風が切り出してくれたおかげで  
焼いてきたシュトーレンも無事先輩(と生徒会の皆)に食べて貰えたし  
思ってもいなかったほど素敵なクリスマスを過ごせた。  
 
あと、最後にもうひとつ。  
先輩へのプレゼントがまだ鞄に入ったままだった。  
 
学校を出て家までの距離はそんなに長くない。  
気づけばもう家はすぐそこだ。  
あと数メートルで家、という所で私は歩を止めた。  
ダンスも、ケーキも、自分から言い出せなかった。  
 
だからせめてこれだけは  
 
 
『あの、先輩これ…クリスマスプレゼントなんですけど受け取って、くれますか?』  
下を向いたまま差し出した袋の重さが0になる。  
ほっとして顔を上げたその目の前に私が先ほどまで持っていたそれより少し小さな袋が差し出された。  
 
『俺からのプレゼントも、受け取ってもらえるか?』  
小さく頷いてから、返事の代わりにその袋をゆっくりと手に取った。  
 
 
『今日はありがとう。  
 龍咲が手伝ってくれて本当に、助かった。そして……嬉しかった』  
頭の上から降ってきたその声は、少しだけ火照った体に染み込むように響いた。  
 
『わたしも、先輩と一緒で嬉しかったです…』  
 
やっぱり普段みたいには上手く声になっていなかったけど、今度はちゃんと言えた気がした。  
勇気を出して見上げた先輩の顔が今までのどんな笑顔より嬉しそうに輝いてみえたから。



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