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サンタさんと天使さま

 

それはクリスマスイブの夜の出来事  
 
 
見た目はまだ子供のサンタの持っている大きな袋からは色とりどりの星がさらさらと、途切れることなく流れ出ていました。  
その星は地上の子供達の元へ辿り着く頃には、一つは可愛いくまのぬいぐるみに、また一つはサッカーボールにと様々なプレゼントに形を変えていました。  
 
 
大きな袋から流れ出ていた星の流れが少しずつ緩やかになり、やがて最後の星が地上へ消えて行った時  
サンタのもとへ蒼い美しい髪の天使がふわりと舞い降りてきました。  
 
『サンタさん、こんばんは』  
『こんばんは、天使さま』  
目があった瞬間に二人はにこやかに微笑みを交わし合いました。  
そして、天使はすぐにサンタの元へ来た目的を果たすため言葉を続けます。  
 
『私はあなたの願いをひとつ、叶えに来ました。何か願い事はありませんか?』  
サンタは唐突な天使の言葉にも、笑顔で答えます。  
『それでは、今から地上へ雪を降らせてくれませんか?』  
『わかったわ』  
天使が小さく呪文を唱えると、真っ白な雪がはらはらと天上から舞い降り始めます。  
『ありがとうございます、天使さま』  
地上で嬉しそうに雪を見上げている人達を見てサンタは顔を綻ばせ、地上の人々よりも嬉しそうな笑顔を浮かべてました。  
 
 
その幼い容姿とは裏腹に、この国のサンタはとても長い間クリスマスに贈り物を贈り続けていると聞いていました。  
この広い空の上で、たった一人でいつも国中を見渡しているのです。  
クリスマス以外も休む事無く国を見守り続けるサンタに、何か贈り物をと蒼い髪の天使が遣わされたのでした。  
 
サンタは天使が自分の元へ来た目的も、天使が舞い降りた瞬間に解っていたのでしょう。  
しかし、結局今叶えた願い事も、自分の為ではありませんでした。  
「いつもそれだけ頑張っているのなら、たまには自分の事を考えていいのに  
 国の人々をあんなに幸せな笑顔にしてくれる存在だからこそ、本人がもっと幸せになるべきなのに…」  
ちらりとサンタの顔を覗き込んだ天使は、その嬉しそうな笑顔に思わず胸が高鳴った事にすら気付いていませんでした。  
『貴方の願いは、他にないのですか?』  
天使をじっと見つめた後、サンタは答えます。  
『良ければ、これから少しだけお茶に付き合っていただけますか?』  
 
天使は、その答えに驚きましたが勿論二つ返事で承諾します。  
サンタはとても薫りの良いお茶を二つ入れ、天使の話を興味深げに聞き入りました。  
まるで自分の自慢をするように、国の人たちの話も嬉しそうに話しました。  
でも、天使は途中で気付きました。  
サンタは自分の話を全くしない事を・・・  
 
『少しは温まりましたか?天使さま。それではお気をつけて。今日は本当にありがとうございました』  
そして、二つ目の願いすら自分の為ではなく天使をもてなす為だった事を、帰り際にサンタがそう言った時に知るのです。  
 
 
 
 ***  
 
 
 
 
それからしばらくたっても、蒼い髪の天使はサンタの事が気にかかって仕方ありませんでした。  
どうしてそんなに気にかかるのかなど気にも留めずに、時間があるとサンタの元へ通う様になっていました。  
天使が訪れると、いつもサンタは美味しいお茶やお菓子と優しい笑顔でもてなしてくれました。  
いつの間にか天使がやってくるのを心待ちにしている事も気付かずに・・・。  
 
 
ある日、蒼い髪の天使がたまたま同じ方向に用事のあった天使と一緒にサンタの元を訪れます。  
蒼い髪の天使が他の天使と一緒に居る所を見たサンタは、自分の胸がちくりと痛んだ事に気付きました。  
『・・・?何だろう、これは……』  
今まで感じた事の無い痛みの理由が、サンタには解りませんでした。  
長い間この国を見守ってきたサンタは、人と人とのやりとりをずっと見てきました。  
しかし、とてもとても長い時間をたった一人で過ごしていたために人々の気持ちを実際に自分の心で感じる事はなかったのです。  
 
 
それからも理由の解らないまま、ぢくりぢくりと胸の痛みは増すばかり・・・。  
サンタはいつからか天使の顔を真っ直ぐ見る事が出来なくなりました。  
 
天使は訪れる毎に元気を失くしていくサンタの様子に不安を覚え、その理由を聞いてみました。  
でもサンタからは否定の返事が返ってくるだけで、満足のいく答えは返ってきません。  
「何か、サンタさんの気に障るような事をしてしまったかしら…。それとも、こうやって尋ねるのは迷惑なのかしら…」  
今日こそは前の様な笑顔を見せてもらえるのではと期待して訪ねても、その度に哀しい気持ちで帰る事になりました。  
 
そして一度だけ、勇気を出して自分が訪ねる事が迷惑かと聞いてみました。  
すると、そんな事はないと慌ててサンタは否定したのです。  
 
迷惑でないという答えが返って来ただけで、天使は十分でした。  
空に住む者は嘘をつく事はありません。  
訪れる事が迷惑でないと喜んだ自分の気持ちの奥にあるサンタへ恋心に、天使はその時やっと気付いたのでした。  
 
 
そして季節は巡り、またクリスマスの季節がやってきました。  
サンタは子供たちへのプレゼントの準備に大忙しです。  
蒼い髪の天使は時間を作ってはサンタの元へ手伝いにやってきました。  
その頃には少しずつ、サンタもまた天使に笑顔を見せる様になっていました。  
でも天使はふとした折に、サンタが何か思い詰めた様な表情をしている事を知っていました。  
 
クリスマスイブの夜に、天使はまたサンタに願い事がないか尋ねます。  
するとサンタは今年も雪を降らせて欲しいと答えました。  
 
ひらひらと舞い散る白い雪を見上げ喜ぶ地上の人々の笑顔を、サンタは嬉しそうに眺めました。  
『ありがとうございます、天使さま…』  
願いを叶えた天使へお礼を言おうと振り返った時、こつりと二人の手が触れました。  
雪で冷えたサンタの手の冷たさに気付いた天使は自分の手でサンタの手を包み、思わず涙を零してしまいます。  
 
『サンタさんは、もう少し自分の事も考えていいと思うのです・・・』  
天使の手の温かさに、自分のために零れ落ちた真珠の様な大粒の涙に、サンタは戸惑います。  
どうすれば良いのか解らなくて、思わず逸らした視線の先に居たのは寄り添い合い雪を見上げている地上の恋人達でした。  
その姿を見て、サンタは自分の気持ちに気付くのです。  
「ああ、これが……誰かを特別に好きだという気持ちなのだ…」  
 
 
 
『それでは、私の我侭な願い事をもうひとつだけきいてくださいませんか・・・?』  
差し出された手と共に遠慮がちに紡がれたサンタの願い事は思ってもみないもので  
天使はこれまで見せたどんな笑顔よりも綺麗に、嬉しそうに笑いながら頷きました。  
 
その笑顔を見てサンタも負けない位の眩しい笑顔を浮かべます。  
それは天使がずっともう一度見たいと思っていた以上の笑顔でした。  
 
二人の手が重なった時に天使の頬を伝った一粒の嬉し涙は、先ほどよりも少しだけ温かくなったサンタの指に拭われて消えたのでした。  
 
 
 
 
 
-これからも、こうやってずっと一緒にいてくれませんか?-



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