「ただいまー・・・」
玄関に響く声
僅かに緊張の色が見える海の声
今日は予てから約束していた大事な日だ
『紹介したい人がいるの』
数日前海が頬を染めながら両親にポツリと呟いた言葉
その日から毎日気になって気になってなかなか心も気持ちも落ち着かなかった
あらかじめ事前に予行練習をしてどう対応すればいいか、なんと答えればいいか
ウミと何度も入念に打ち合わせを重ねてきた
さらに姿も青年の姿へと変えこの世界で云う「正装」に着替え
上から下まで黒のスーツにネクタイのいでたち
着慣れぬせいか余計に緊張が増して落ち着かなくなる
「・・・失礼します」
僅かな緊張を押し隠し広い部屋へとクレフは通される
「まあ!、・・・初めまして」
部屋の中からにっこりと上品な笑顔で迎えるウミの母君
(きっとウミは母親似だな、仕草雰囲気がよく似ている)
優しく微笑み会釈をしながらふと心の中で呟くクレフ
チラリと海を盗み見るとウミは緊張してるのかうまく言葉が出てこない様子
機転で咄嗟に頭を働かせクレフは率先して自己紹介を試みる、が
その時部屋の奥から男性の声が響き渡る
「初めまして、・・・海の父親です」
颯爽と現れたその人物はびしっとシャツを着こなし笑顔で語りかける
思わずクレフはその人物をじっと見つめ返す
「・・・参ったな」
ポツリ呟くクレフ
その声にウミが「・・・え?」と思わず反応する
この者は人を見る目が有る
善し悪しを判断する目に長けている
いつぞやウミにご両親のことを尋ねたことが有ったが
なるほど、・・・この者は人の上に立つ才能が備わっている
笑顔で談笑をしつつその瞳の奥ではわたしを見透かす瞳で観察している
さすが
・・・ウミのご両親だ
なかなか一筋縄ではいかないようだ
ふっとクレフは苦笑しウミの方へ体を向けて一言呟く
「ウミ、すまない・・・せっかくいろいろ用意してくれたのに、だが、・・・・」
そう呟くとクレフは何やら目を閉じブツブツ呟き始めた
そして一瞬の閃光が部屋を照らす
閃光と共にそこに現れたのはいつもの姿のクレフ
背も低く導師と呼ばれる白い衣装を身に纏ったあの異世界最高位の導師の姿
海の両親は目を見開き何が起こったのかわからない様子で
ただ固唾を飲んだまま動かない
「改めまして初めまして、わたしの名はクレフと申します、・・・・実は、・・」
全てを洗いざらい話そうと決意し口を開こうとしたクレフに海の父はすぐに手で制す仕草した
「パパ待って!、これは、・・・」
海が二人の間に入ってなんとかクレフを庇おうとした瞬間
「海ちゃん、・・・少し外へ行きましょう」
そっと海の肩を掴んで優しく微笑む母親
「だって、・・・」海がなにか言おうとした瞬間
「ウミ、母君の仰るとおりだ、・・・少し外へ行っておいで、わたしなら大丈夫だから」
いつもの通り優しい微笑みでウミを説き伏せる
ウミはしばらくクレフを見つめたがコクリと頷いて母親と部屋を出た
「こんな筈じゃなかったのに、・・・」
部屋を出て廊下で涙ぐむ海
「・・・大丈夫、心配いらないわ!」
「・・・?」
海とは対照的に母親は軽くウィンクして微笑んだ
*
父親はソファーに深く座って指を組みながら足を組んだ
「さて、クレフ、・・・さんだったかな?尋ねたい事は多々あるが、まず、・・なぜその姿に?
先ほどの姿が偽りの姿だったとして、先ほどのほうがわたしに好印象を与えられると思わないかい?
わたしだったら、・・・そうだな、自分に都合のいい形で話は進めて行きたいものだよ、
自ら立場が悪くなるようなことは決して自分からは明かさないな」
父親はわざと肩を窄めて苦笑する
だが実際この者はそんなことなどはしない
きっとわたしと同じようなことをしただろう
わたしと何処か似ているのかも知れないとクレフは胸の中で悟る
「・・・・わたしは、正々堂々とあなたと向き合いたかったからです」
心を真っ直ぐに見据えウミの父親に偽りなく語りかける
そして突如ふとある出来事を頭の中で思い出す
あれはアスコットに後々聞いた話だ
『自分に恥ずかしいことがなければ誰が文句をいっても胸を張って生きていればいい』
アスコットがウミに言われた言葉
あの言葉のお陰で今の自分があるとアスコットは云っていた
そしてウミにとても感謝している、とも
そうだ
誰しも負い目や迷いがあれば必ず一瞬のミスで負ける
自分を信じなければどうする?
ウミのことを本当に大切に想っているのなら余計なことなど考えずに
初めからこうすれば善かったのだ
わたしはどうかしていた
緊張しすぎて当たり前のことに気が付かず自分を見失っていた
「・・・、海の何処が?」
長い沈黙の後父親が口を開く
「わたしを、・・・わたしの不変だった人生を変えてくれたのです、あの笑顔で」
父親はじっとクレフの姿を見つめる
長い人生の中で人の上に立つ仕事をしてきて様々な人間を見てきたつもりだった
だがこの「彼」はどこか違う
長い長い人生を生き抜いてきた、重い「何か」を背負ってきた瞳をしている
それもずっと永く遠い年月を
見た目の容姿とは裏腹に私など足元にも及ばないほどの月日を
瞳の輝きや意思も強く、そして今まで会ってきた誰よりも心が強い
純粋な瞳と心を持ち合わせている
なるほど海が好きになる訳だ
「・・・敵わないな」
ポツリと呟き小さく苦笑する
そして改めてソファーに座り襟を正す
「クレフさん、娘を、・・・海を宜しくお願いします」
そっと頭を下げた
ふぅ・・・と深い溜息を吐く
「パパ、・・・どうでした?」
微笑みながらママは机の上に紅茶を置く
「・・・完敗だ、言い負かせなかったよ」
ふふっと優しく笑って肩を窄める、子供のように、だが楽しそうに
本当はすぐに追い返すつもりだった
確かに「恋」はしたほうが良いとは云ったがそれはそれ
やはりまだまだ娘には側に居て欲しいものだ
だから海に「紹介したい人がいるの」と頬を染めて言われた日には
寝れに眠れずどう言い負かそうと日々悶々と考えていたのに・・・
「彼」に会った瞬間その無意味な自信も威厳さえも投げ出された
話をする度にいつの間にか益々気に入ってしまい文句の付けようが無くなってしまった
なんとか一矢報いようとわざと意地悪っぽい態度を取ってはみたが
それもどうやら見透かされていたようだ・・・
思わず父親本人も思い出し苦笑する
「・・そういえば海は?」
先ほどから海の姿が見えない
ふと疑問に思いママに尋ねると
「ふふっ、・・・クレフさんを送りに行ったわ、嬉しそうに」
「・・・そうか」
寂しいような
・・・嬉しいような
だがきっとあの「彼」なら娘を幸せにしてくれるだろう
わたしたち夫婦の娘への「願い」もきっと叶えてくれるだろう
そう心に願いながら長い一日の終わりを告げる紅茶をゆっくりと味わった
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うわーん!!図々しいです、管理人!!
またもや、前向きに一歩ずつの春凪さんより頂いてしまいました!!
リクエスト受付~にまんまと自重せずにっっ便乗!?
あんまりにも、母の日、父の日の海ちゃんご両親話が素敵だったもので・・・
「クレフさんが海ちゃんの両親にご挨拶に来た時の話」
なんてリクエスト・・・。
父親よりも年上(そんな問題ではない)の彼氏ですから、
普通は反対されるよね(それ以上の問題がいろいろありますが)
ていうかっ!海パパかっこよすぎですってば!
あんないいお父さんがいたら、その辺の男はだめだろうなぁ。
まぁ、クレフさんだからいいんですけどね!!(結局何が言いたい・・・)
春凪さん、本当にありがとうございましたー!!!



