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君に贈る言葉

 

再び召喚された時から、予感していた事だった。  
いつかこうして訪れる、別れの時。  
分かっていた事なのに。覚悟していた、はずなのに―――。  
 
(…クレフ)  
 
全てが終わった今、自分達は戻らなければならない。  
その自覚と同時に、海の脳裏を駆け抜けたセフィーロで出会った大切な人達の顔。  
最後に思い浮かんだのは、一番最初に出会った、彼の顔。  
 
(無事なの?…ケガしてない?また倒れたり…、したからって、黙って…じっとしてられるような人じゃ…ないもの。本当に、心配ばっかり…)  
 
『……ウミ』  
 
安否が気がかりなばかりのその人の声が響いた瞬間、はじかれたように海が顔を上げた。  
 
「クレフ!クレフ、私……!」  
 
生きていた、無事かどうかまでは分からないけれど、ちゃんと生きていた。  
そんな安堵の気持ちを連れ去るように、残された時間がわずかであるという感覚が海の心を支配する。  
何か、何か言わなければ。  
伝えたい言葉がたくさんある、交わしたい言葉がたくさんある、なのにどうしてその時間すら与えられないのか。  
ただ顔を見て、無事で良かったと笑い合って、その手にもう一度触れたいだけなのに。  
叶うはずのない願いが涙となって瞳にじわりと滲む。  
けれどすぐに思い立つ、今自分に必要なのはこんな感情にまみれている時間ではない、と。  
 
(クレフ)  
 
心の中で呟いたその名が、愛しい人の名なのだと胸いっぱいに感じながら、開いた口から海は言葉を発しようとした。  
けれど、自分で何を言おうとしているのか分からない、いくつもある伝えたい言葉の中から何を選んで声にしようとしているのか分からない。  
まとわりつく困惑よりも、どんな形でもいいから今はただ彼の声に応えたい、その思いに駆られて、海の心がクレフの元へ響いた。  
 
 
「好き…。私、クレフのこ…と……」  
 
 
涙で詰まった海の声が告げたのは、隠し続けてきた想い。  
きっと自分の一方的な心で、クレフを困らせるだけの心で、今さらこんな言い逃げるように明かすつもりなんてなかったのに。  
そのまま乱れかけたように思えた感情が、気付けば海の中で静かに別の物へと変わっていた。  
これが最後なら、二度と会えないのなら、せめて知っておいてもらえたら。  
自分が彼に抱いた想い、大切な人だと感じていた心、いつか彼の記憶から消えて無くなる日が来ても、ほんのわずかな間だけでも、その心に留まってみたい。  
 
(最後…なのに、わがまま言って…ごめんね……)  
 
もうこれ以上伝える事は叶わない言葉を飲み込んだ海の耳に、もう一度、クレフの声が届いた。  
 
『ウミ』  
 
こうして呼ばれるのももう最後なんだ、湧き出した思いに溢れそうになった涙を、クレフの囁きがそっと引き止める。  
 
『……ありがとう。ありがとう、ウミ』  
 
(クレ…)  
 
もう一度だけ心に浮かべようとした名前は、最後まで紡げなかった。  
突然まばゆい光に包まれたかと思うと、次に瞳に映ったのは、三人が出会った懐かしい東京タワーからの景色だった。  
 
 
 
 
 
時々一人で東京タワーに行ったりするんだ、と切なげに笑っていた親友を思い出しながら、今、海も一人同じ場所に立っていた。  
 
(きっと、風も同じね。だって、私でもそうなんだから)  
 
後になって明かされた、親友二人の最後の会話の内容とその相手。  
忘れない、そう告げたと微笑んでいた風と、同じ気持ちだった事が分かったと恥ずかしそうに教えてくれた光と。  
 
(嘘付いちゃった。クレフ)  
 
それなのに、自分は言えなかった。  
“クレフが「ありがとう」と言ってくれた”、二人に話す事が出来たのはそれだけ。  
あの時告げた想いも、告げられた言葉に込められた意味も、何もかもがまだ自分の中で不確かで、とても二人のように上手く説明出来そうにはなかったから。  
 
(“ありがとう”…か)  
 
大切な人から贈られた最後の言葉を、心の中で繰り返しながら、海は考える。  
 
(どういう…意味、だったの?セフィーロを救うために、少しだけど力になれたから?もう会えなくなるから、今までの色んな事にただありがとうって、お別れの言葉に選んだだけ?)  
 
抱いた疑問に、答えてくれる声はもうない。  
けれど。  
 
(ねぇ、クレフ)  
 
どうかこの声が、今は遠い空の下にある彼の元まで届くように。  
まるで目の前にいた頃のように、空を見上げる海が呟く。  
 
(……あんな声で、言われたら。…勘違い、しちゃいそうよ……)  
 
最後に響いたクレフの声が、“ありがとう”と告げて、自分の名前を囁いてくれたその声が。  
あまりに優しくて、そして、自分と同じように微かに震えていて。  
思い込みだと言われればそれまでだけれど、今はまだ、この思いに身を任せていたい。  
そんな風に、海は思った。  
 
(好きよ、クレフ)  
 
ふいに空の彼方に投げたのは、あの時告げた想いより、もっと深く穏やかな場所にたたずむ心。  
いつかまた逢えたら、そう願う気持ちはきっとずっと消えない。  
ただ、もしこのまま逢える日が来なくても。  
優しく呼んでくれたあの声を、もう永遠に聴く事がなくても。  
 
(大好き)  
 
クレフの事が、彼に恋した自分が、今こんなにも愛おしく思えるから。  
そして、あの時打ち明けてしまった自分も、応えてくれたクレフの言葉も、みんなみんな、宝物のように思い出の中で輝いているから。  
 
「ありがとう。……クレフ」  
 
最後に海が囁いたのは、あの時応えてくれたクレフに本当は自分も返したかった言葉。  
 
(次に逢えた時、ちゃんと言うから。それまでは、許してね)  
 
たった今再会の日が来なかった時を思って心を整理したはずなのに、もうまた逢いたい気持ちに引き戻されてい事に気付いて、空を見上げたままの海が、小さく笑った。  
 
 
 
 
 
*****  
 
レイア一挙放送時の最終話で萌え萌えしてたら沙都さんの萌え話があまりに素敵でして、  
きゃーきゃー言ってたらなんと頂きものをしてしまいました!!  
 
うわあいうわあい!言ってみるもんですかねありがとうございますーヽ(≧□≦)ノ  
もう、 最終話見ながら何度海ちゃんに告白してーーー!!と叫んだことか・・・  
(見る度に叫んでます)  
 
そして告白しても別れなければならないからと応えられないクレフさんでも  
海ちゃんへの気持ちをまだ自覚していないクレフさんでもどちらにしても切ないよ…せつないよ…!!  
だがそこがいい…なんておもってしまうのでした。  
 
もちろん、せつない想いをさせた後にはいっぱい幸せになってくれないと困りますけど、ほんと困りますけどね…!!  
 
 
 
沙都さん、今回は素敵な小説本当にありがとうございました!



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